clear

2021年3月



silver

2020年4月

銀のエレベーターで のぼりおり する。靴の輪郭が白く発光するのを彼は見下ろしていた。数が、順序立てて光る。うえへまいります。したへまいります。輪郭が発光する。数が光る。うえへまいります。したへまいります。発光する。光る。発光。光。彼のゆがんだ背中が照射される。瞼の裏がくらくなっていく。

 

ふいに扉が開いた。銀のエレベーターから降りた彼の目の前には、茫漠とした影の群れが広がっていた。葉、のように見える。枝、のようにも見える。歩き出せば、ざくりざくりと足元の薄い膜が砕かれていくような感覚があった。彼は森を思った。


easy

2020年4月

兎小屋から悲鳴が上がった。トタン屋根がめきめき音を立てて歪んでいく。巨大化しているのだ、と、僕には分かった。みるみる小屋が割れ、ウルトラマンの怪獣のごときサイズの兎が現れた。灰色の毛並みが芝生を覆う。あまりに大きすぎて、車内からは口元と前足しか見えない。近くに住む人々が逃げまどっている。

 

その時僕は、堤防の下に車を停めていた。ここから逃げなければならない。しかし、僕の車だというのに、運転席には見知らぬ人が乗っていた。眼前の巨大兎はじっと小屋の中にいるが、いつ動き出すか分からない。後部座席から身を乗り出してエンジンをかけた。見知らぬ人は迷惑そうな顔をしたが、しかたなさそうにアクセルを踏んだ。狭い路地を抜けよう。ハンドルを切って遠ざかる僕の耳に、遠くから、めきめきと何かが剥がれていく音が届く。